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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)299号 判決 1999年5月20日

東京都千代田区三番町2番地

原告

飛島建設株式会社

代表者代表取締役

石原昭一郎

訴訟代理人弁理士

原田信市

大阪府大阪市中央区本町四丁目1番13号

被告

株式会社竹中工務店

代表者代表取締役

竹中統一

訴訟代理人弁理士

北村修一郎

主文

特許庁が平成1年審判第19647号事件について平成9年9月5日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  原告が求める裁判

主文と同旨の判決

第2  原告の主張

1  特許庁における手続の経緯

被告は、発明の名称を「鉄筋コンクリート構造体の構築方法」とする特許第959078号発明(以下「本件発明」という。)の特許権者である。なお、本件発明は、昭和50年6月6日に特許出願され、昭和53年10月26日の出願公告を経て、昭和54年6月14日に特許権の設定登録がされたものである。

原告は、平成元年11月24日に本件発明の特許を無効にすることについて審判を請求した。特許庁は、これを平成1年審判第19647号事件として審理し、平成9年9月5日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、同年10月29日にその謄本を原告に送達した。

なお、被告は、平成3年7月3日に願書添付の明細書及び図面を訂正することについて審判を請求し(平成3年審判第13450号事件)、訂正を認める旨の審決が平成9年3月17日に確定している。

2  本件発明の特許請求の範囲(別紙図面A参照)

プレキャスト鉄筋コンクリート版製で横断面形状Uの字型の梁型枠4・・を成形し、この梁型枠4・・の鉄筋6・・と現場打ちされる鉄筋コンクリート構造体のスラブ相当位置にある鉄筋7・・とを連結した後、前記梁型枠4・・のUの字型の開放空間内にコンクリートを打設して、梁型枠4・・と現場打ちされるスラブ鉄筋コンクリート構造体とを一体化させることを特徴とする鉄筋コンクリート構造体の構築方法。

3  審決の理由の要点

別紙審決書の理由写しの一部のとおり(審決における甲第1号証の特許公報を以下「引用例1」、審決における甲第3号証の特許公報を以下「引用例2」という。)

4  審決の取消事由

審決は、各引用例記載の技術内容を誤認した結果、本件発明の進歩性を肯定したものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

(1)審決は、引用例1には、プレキャストコンクリート製で断面U型梁体とプレキャストコンクリート製の床板とを、梁体の断面U型の開放空間内にコンクリートを打設し、両者を一体化する鉄筋コンクリート構造体の構築方法が記載されているに止まり、この方法が本件発明の効果を奏するとは認められない旨判断している。

しかしながら、引用例1の特許請求の範囲、1頁右下欄5行ないし2頁左上欄7行及び第17図によれば、引用例1には、プレキャストコンクリート製U型梁体6の突出スターラップの補足スターラップ10'及び上端鉄筋17と、U型梁体6に跨架されたプレキャストコンクリート製床板の配筋の延長部分とを連結するとともに、U型梁体6の中空部に生コンクリートを充填することによって、U型梁体6と床板とを一体化する方法が記載されていることが明らかであるから(別紙図面B参照)、審決の上記認定は誤りである。

そうすると、本件発明と引用例1記載の発明の相違点は、本件発明のスラブ鉄筋コンクリート構造体が現場打ちされるものであるのに対して、引用例1記載の発明の床板はプレキャストコンクリート製である点のみである。

(2)しかるに、引用例2の「發明ノ性質及ヒ目的ノ要領」の3行ないし5行、「發明ノ詳細ナル説明」の1行ないし7行及び第4、5図によれば、引用例2には梁毎内と箱形ブロックの上側にコンクリートを現場打ちして、梁枠と一体化した鉄筋コンクリート床を構築する方法が記載されていることが明らかである(別紙図面C参照)。この点について、審決は、引用例2にはワッフルスラブを構築するための埋殺し型枠が記載されているに止まると認定しているが、誤りである。

したがって、本件発明と引用例1記載の発明の上記相違点は、当業者ならば容易になしえた設計変更にすぎない。また、本件発明によって得られる作用効果も、当業者ならば引用例1及び2の記載に基づいて予測しえた範囲を越えるものではないから、本件発明の進歩性を肯定した審決の判断は、誤りである。

この点について、被告は、引用例2記載の発明は鉄筋コンクリート床構成用の「ブロック」を対象とするものにすぎないから、この記載がプレキャストの鉄筋コンクリート製梁型枠を利用することによって簡易に鉄筋コンクリート構造体を構築する本件発明の技術内容を示唆するというのは論弁である旨主張する。

しかしながら、引用例2には、「梁ノ強度ヲ大ナラシム」(「發明ノ詳細ナル説明」の5行)、「梁下端以外ハ漆喰塗ヲ施シ得ル」(同8行)と記載されており、鉄筋コンクリート床構成用の「ブロック」が「梁」として機能することが明らかにされているから、被告の上記主張は失当である。

第3  被告の主張

原告の主張1ないし3は認めるが、4(審決の取消事由)は争う。審決の認定判断は正当であって、これを取り消すべき理由はない。

原告は、引用例2には梁枠内と箱形ブロックの上側にコンクリートを現場打ちして鉄筋コンクリート床を構築する方法が記載されていることを論拠として、本件発明と引用例1記載の発明の相違点は当業者が容易になしえた設計変更にすぎない旨主張する。

しかしながら、そもそも引用例2記載の発明は鉄筋コンクリート床構成用の「ブロック」を対象とするものであって、複数の鍔付きの箱型ブロック(審決のいう「埋殺し型枠」)の鍔を、別紙図面Cの第4、5図に図示されているように縦横に突き合わせてコンクリート床(審決のいう「ワッフルスラブ」)を構築すると、床の「下面」がたまたま「格天井ヲ形成シ」(「發明ノ性質及ヒ目的ノ要領」の4行)、「梁形を形成スル」(「發明ノ詳細ナル説明」の2行)というものにすぎず、しかも、上記「ブロック」は、鉄筋で補強されているものではない。このような引用例2の記載が、プレキャストの鉄筋コンクリート製梁型枠を利用することによって簡易に鉄筋コンクリート構造体を構築する本件発明の技術内容を示唆するというのは、詭弁以外のなにものでもない。

理由

第1  原告の主張1(特許庁における手続の経緯)、2(本件発明の特許請求の範囲)及び3(審決の理由の要点)は、被告も認めるところである。

第2  甲第2号証(特許審判請求公告)によれば、本件発明の概要は次のとおりと認められる(別紙図面A参照)。

1  技術的課題(目的)

本件発明は、梁を有する鉄筋コンクリート構造体の構築方法に関するものである(3欄7行、8行)。

鉄筋等が埋設されたコンクリート構造体を構築する場合、従来は、所定の仮設物の上にベニヤ板等で成形した梁型枠等を組み付け、型枠上に鉄筋コンクリートを打設し、打設コンクリートが硬化した後に、型枠及び仮設物を解体撤去し、打設コンクリートの表面の仕上げを行っていた。そのため、仮設物の組付けや解体撤去に多大の経費等を要するのみならず、打設コンクリートの硬化を待つ間、工期が延長する問題点があった。本件発明の目的は、従来技術の問題点を解決し、かつ、使用材料の割には強度が大きい構造体を構築しうる方法を創案することである(3欄9行ないし25行)。

2  構成

上記の目的を達成するために、本件発明はその特許請求の範囲記載の構成を採用したものである(1欄3行ないし3欄5行)。

3  作用効果

本件発明によれば、

a  仮設物の組付け、解体撤去を省略でき、打設コンクリートの硬化を待つ必要がなく、また、打設コンクリートの表面の仕上げも不要である、

b  梁型枠の強度を利用できるので、現場打ちするコンクリート及び鉄筋の量を減少することができる、

c  現場打ちコンクリートによる梁とスラブとが強固に連結されるため、使用材料の割には強度が大きいコンクリート構造体を簡単に得ることができる

との作用効果を奏することが可能である(3欄36行ないし4欄31行)。

第3  そこで、原告主張の審決取消事由の当否について検討する。

1  引用例1に、審決認定の技術的事項(すなわち、プレキャストコンクリート製で断面U型梁体と、プレキャストコンクリート製の床板とを、梁体の断面U型の開放空間内にコンクリートを打設し、両者を一体化すること)のほか、原告主張の技術的事項(すなわち、プレキャスト鉄筋コンクリート製梁型枠の鉄筋と、鉄筋コンクリート構造体のスラブ相当位置にある鉄筋とを連結すること)が記載されていることは、被告も争わないところと認められる。

そうすると、本件発明と引用例1記載の発明の相違点は、本件発明のスラブ鉄筋コンクリート構造体が現場打ちによって形成されるものであるのに対して、引用例1記載の発明のコンクリート製床板はプレキャストされたものである点のみであるという原告の主張は、正当である。

2  原告は、引用例2には梁枠内と箱形ブロックの上側にコンクリートを現場打ちして、梁枠と一体化した鉄筋コンクリート床を構築する方法が記載されている旨主張する。

検討すると、甲第5号証によれば、引用例2には次のような記載があることが認められる(別紙図面C参照)。

a  「本發明ハ建築物ノ鐵筋「コンクリート」床ヲ構成スルニ要スル「ブロック」ノ改良(中略)ニ係リ其目的トスルトコロハ簡單ナル形状ヲナセル「コンクリート、ブロック」ヲ基トシ之ニヨリテ「コンクリート」床ヲ構成スルトキハ同時ニ下面格天井ヲ形成シ之ヲ構造スルニ當リ木製假板枠ヲ用ヒスシテ單ニ假桁へ「ブロック」ノ接目ノ凹凸ヲ互ニ組合セツ、置渡シ鐵筋ヲ結束シ以テ「コンクリート」ヲ填充スルカ故ニ施工極メテ容易ニシテ且ツ工事ヲ迅速ニ行ハシムルニアリ」(「發明ノ性質及ヒ目的ノ要領」の1行ないし5行)

b  「本發明ノ「ブロック」ハ適當ナル大サノ正方形若クハ長方形ヲ爲セル第一、二、三圖ニ示セル如ク鍔付ノ箱形ト爲シ鍔ヲ着付ケ竝フレハ梁形ヲ形成スルコト第四圖ニ示セルカ如シ」(「發明ノ詳細ナル説明」の1行、2行)

c  「「ブロック」ノ上端四邊ニ(チ)ナル斜面ヲ附シテ梁ノ強度ヲ大ナラシム」(「發明ノ詳細ナル説明」の5行)

d  「本發明ノ「ブロック」ヲ使用シテ「コンクリート」床ヲ構成スルトキハ木製假板枠ヲ要セス單ニ假支柱(ホ)上ニ假桁(ニ)ヲ架ケ之ニ竝へ置渡シ鐵筋ヲ結束シ「コンクリート」ヲ填充スルモノナルカ故ニ施工極メテ容易ニシテ作業ヲ迅速ナラシメ且ツ床下端即チ天井ノ仕上ヲ爲サントスルトキハ填充「コンクリート」ノ硬化ヲ待タスシテ梁下端以外ハ漆喰塗ヲ施シ得ルモノナリ」(「發明ノ詳細ナル説明」の6行ないし8行)

このように、引用例2には、複数の鍔付き箱形コンクリートブロックを鍔同士が相接するように配置して鉄筋を結束したうえ、コンクリートを現場打ちしてコンクリート床を形成することが記載されているが、この場合、鍔同士が相接するように配置された複数の箱形コンクリートブロックが梁型枠として機能していることは明らかである。

したがって、引用例1記載の発明のプレキャストされたコンクリート製床板を、コンクリートを現場打ちして形成するものに変更することは、当業者ならば何らの困難もなくなしえた設計変更にすぎないというべきである。

この点について、被告は、引用例2記載の発明は鉄筋コンクリート床構成用の「ブロック」を対象とするものであるうえ、上記「ブロック」は鉄筋で補強されているものではないから、引用例2の記載がプレキャストの鉄筋コンクリート製梁型枠を利用することによって簡易に鉄筋コンクリート構造体を構築する本件発明の技術内容を示唆するというのは詭弁である旨主張する。

しかしながら、引用例2に、プレキャストされたコンクリートブロックの開放空間内にコンクリートを現場打ちして、コンクリートブロックと現場打ちされる鉄筋コンクリート構造体とを一体化する技術が記載されていることは明らかであるから、引用例2記載の発明が鉄筋コンクリート床構成用の「ブロック」を対象とするものであり、また、このコンクリートブロックが鉄筋で補強されているものではないということはできず、したがって、引用例2記載の技術を引用例1記載の発明に適用することが困難であるとする理由はないというべきである。

3  以上のとおり、本件発明は、引用例1及び引用例2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、原告の無効審判請求を退けた審決の認定判断は、誤りであって、審決は違法なものとして取消しを免れない。

第4  よって、審決の取消しを求める原告の本訴請求は、正当であるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成11年4月20日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 春日民雄 裁判官 宍戸充)

別紙図面A

<省略>

図面は本発明に係る鉄筋コンクリート構造体の構築方法の実施の態様を例示し、第1図は構築完了状態を示す断面図、第2図は第1図の11-11線断面図、第3図(イ).(ロ).(ハ)は構築工程を示す断面図である.

4……梁型枠、5……スラブ型枠、

6、7……鉄筋.

別紙図面B

<省略>

別紙図面C

<省略>

甲第1号証(特開昭49-16222号公報)、

「断面円形中空部を形成したプレキャストコンクリート製柱体及梁体と鉄柱及鉄骨梁とを分離部材として形成し柱体には鉄筋を挿通する縦孔を設け鉄柱には上下端に接合フランヂを設け下部に鉄梁を突設し梁体は内面中部に相対向し突出部と合成鉄筋を突設し柱体中空部内に鉄筋及鉄柱を立て柱体頭部に梁体を架け鉄柱と梁体端部とを接合板にて接合し上部の鉄柱を組立て鉄柱相互のフランヂをボルト接合し梁体内に鉄骨梁を位置しその端部を鉄梁に接合し梁体の主鉄筋を挿入し柱体頭部に型枠を当て柱体及梁体の中空部に生コンクリートを充填し合成一体となすを特徴とする鉄骨鉄筋コンクリート造建築工法」(特許請求の範囲の項の記載参照)、

「この発明は多層建築物に於て柱と梁を鉄骨鉄筋コンクリート造として鉄骨の柱及梁プレキャストコンクリート製の柱体及梁体並に床板を工場生産とし現場に於てこれ等を組立て柱体及梁体の中空部に生コンクリートを充填して架構を構成することを特徴とする工法である……略……この発明はか、る冗費を省き柱体はプレキャストコンクリート製中空柱となしその中に鉄骨と鉄筋を挿入し生コンクリートを充填し梁体はプレキャストコンクリート製のU型梁となし梁の下端鉄筋を支持せしめU型梁体中に鉄骨と鉄筋を挿入して生コンクリートを充填するものであり」(公開公報第1頁右下欄第5行~第2頁左上欄第10行の記載参照)、

また、図面第4図、第16図、第17図には、プレキャストコンクリート製の断面U型梁体の上部に突出した突出スターラップ10と梁体6の上端鉄筋とをU型梁体中に充填する生コンクリートで一体化すること、が記載されているものと認める。

したがって、以上の記載から、甲第1号証には、プレキャストコンクリート製で断面U型梁体とプレキャストコンクリート製の床板とを梁体の断面U型の開放空間内にコンクリートを打設して、両者を一体化する鉄筋コンクリート構造体の構築方法が記載されているものと認める。

甲第2号証(特開昭50-15308号公報)、

図面第5図及び発明の詳細な説明には、4はプレキャストコンクリート梁体で、端面U形形状を有しあらかじめ工場生産されたものであること、12は梁体4の端部より突出し柱体1の円形中空部2内に挿入する接合鉄筋、13は梁体4のスターラップであること、16は接合鉄筋17を有するプレキャストコンクリート床板であること、プレキャストコンクリート梁体にプレキャストコンクリート床板を載置し、床板の接合鉄筋を梁体の端面U形形状の空間部上に臨ませ、梁体の端面U形形状の空間部にコンクリートを打設し、プレキャストコシクリート梁体と梁体のスターラップ及びプレキャストコンクリート床体と床板の接合鉄筋とを一体化すること、が記載されているものと認める。

甲第3号証(特許第39945号公報)、

ワッフルスラブを構築するための埋殺し型枠、が記載されているものと認める。

甲第4号証(実公昭35-16841号公報)、

「本案は両側下端に長手方向に沿って突縁部1を突設したU字状主体にU字状肋筋2、3を交互に埋設し、各肋筋2、3の両脚片2’、2’及び3’、3’をそれぞれ前記主体の脚片4、4の上方及び突縁部1、1の側方に露出させてなるプレキャストコンクリート桁Aを並設し、相隣る桁A、A間には桁間コンクリートBを打設し、桁Aの頂部には空腔5を存するように床コンクリートCを打設してなるスラブの構造に係る。」(公報左欄第5~13行の記載参照)、「本案は上述のようにU字型のプレキャストコンクリート桁Aを並列してこの上部に鋼筋10、11を配筋して、桁間コンクリートBと床コンクリートCとを打設して一体の中空コンクリートスラブを形成させたため、……略……。又このようにして形成されたスラブの空腔部5はダクトとして利用できる。」(公報左欄第21~29行の記載参照)、が記載されている。

したがって、これらの記載から甲第4号証には、U字型のプレキャストコンクリート桁を並列してこの上部に鋼筋を配筋して、桁間コンクリートと床コンクリートとを打設して一体の中空コンクリートスラブを形成することが記載されてる。

甲第6号証の1~3(社団法人 日本建築学会、昭和47年10月31日発行、「コンクリートポンプ工法施工指針案・同解説」、表表紙、本文第44、45頁、裏表紙)、

第45頁に「図2.15補強方法の例」として、スラブ用型枠と梁用型枠とを支保工で支保するとともに、スラブ部と梁部とにコンクリートを打設することが記載されている。

甲第7号証の1~3(株式会社技報堂、昭和34年6月15日発行、「最新建築施工」、表表紙、本文第86、87頁、裏表紙)、

第86頁に、「柱の型わく」、「床梁型わく」についての図が記載されており、これには、スラブ用型枠と梁用型枠とを支保工で支保するとともに、スラブ部と梁部とにコンクリートを打設することが記載されている。

甲第8号証の1~3(実教出版株式会社、昭和42年2月25日発行、「建築工法改訂版」、表表紙、本文第114、115頁、裏表紙)、

第114、115頁の図面「図5-22はりの型わく」及び「図5-23柱・はり・スラブの型わく」には、スラブ用型枠と梁用型枠とを支保工で支保するとともに、スラブ部と梁部とにコンクリートを打設することが記載されている。

甲第9号証の1~5(株式会社彰国社、昭和49年4月10日発行、「建築施工管理チェックリスト」、表表紙、中表紙、本文第27頁、同第78頁、裏表紙)、

第78頁の「<10>壁・梁・スラブの端太・支柱」には、壁用型枠とスラブ用型枠と梁用型枠とを支保工で支保するとともに、スラブ部と梁部とにコンクリートを打設することが記載されている。

D. 本件訂正特許発明と各甲号証との対比・判断

本件訂正特許発明は、「この梁型枠4……の鉄筋6……と現場打ちされる鉄筋コンクリート構造体のスラブ相当位置にある鉄筋7……とを連結した後、前記梁型枠4……のUの字型の開放空間内にコンクリートを打設して、梁型枠4……と現場打ちされるスラブ鉄筋コンクリート構造物とを一体化させる」を構成要件とし、「即ち、前記梁型枠4……の鉄筋6……と現場打ちされる鉄筋コンクリート構造体のスラブ相当位置にある鉄筋7……とが連結されていることにより現場打ちによる梁と、スラブ配筋を持つスラブとの連結が強固になり、全体として使用材料の割に強度の大なる鉄筋コンクリート構造体を簡単に得られるに至った。」(平成6年11月24日発行、特許審判請求公告第792号公報第4欄第26~31行の記載参照)、と云う効果を奏し得るものと認められる。

これに対し、甲第1~4、6~9号証に示されたものは、甲第1、2号証は、プレキャストコンクリート製で断面U型梁体とプレキャストコンクリート製の床板とを梁体の断面U型の開放空間内にコンクリートを打設して、両者を一体化する鉄筋コンクリート構造体の構築方法、が記載されているに止まり、

甲第3号証は、ワッフルスラブを構築するための埋殺し型枠、が記載されているに止まり、

甲第4号証は、U字型のプレキャストコンクリート桁を並列してこの上部に鋼筋を配筋して、桁間コンクリートと床コンクリートとを打設して一体の中空コンクリートスラブを形成するに止まり、甲第6、7、8、9号証には、スラブ用型枠と梁用型枠とを支保工で支保するとともに、スラブ部と梁部とにコンクリートを打設するに止まり、前記本件訂正特許発明の効果を奏するものとは認めることができない。

したがって、審判請求人の提出した各甲号証を以て、本件訂正特許発明は甲第1号証と同一とは認められないので、特許法第29条第1項第3号の規定に該当せず、また、これらの各甲1~4、6~9号証から当業者が容易に発明をなし得たものとも認められない。

E. むすび

以上のとおりであるから、審判請求人の主張する理由および証拠方法によっては本件訂正特許発明を無効とすることはできない。

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